水質浄化」EM菌効果 検証せぬまま授業 青森県
     
  朝日新聞デジタル掲載  
  http://www.asahi.com/national/update/0703/TKY201207030458.html
 
「EM菌」という微生物を川の水質浄化に用いる環境教育が、青森県内の学校に広がっている。
普及団体は独自理論に基づく効果を主張するが、科学的には効果を疑問視する報告が多い。
県は、効果を十分検証しないまま、学校に無償提供して利用を後押ししている。あいまいな
効果を「事実」と教える教育に、批判の声も上がっている。
普及団体は独自理論に基づく効果を主張するが、科学的には効果を疑問視する報告が多い。
県は、効果を十分検証しないまま、学校に無償提供して利用を後押ししている。あいまいな
効果を「事実」と教える教育に、批判の声も上がっている。
EM菌は乳酸菌や酵母などの「有用微生物」を配合した微生物資材。農地の土壌改良用に
開発されたが、水質浄化や健康飲料としても利用されている。環境保全の市民活動や有機農法を
行う農家に広がっている。
県教委によると、昨年度、環境教育の一環としてEM菌を使用した小中学校は県内に7校。
ほかの複数校でも使用例がある。多くは、EM菌を地域の川にまくことで「きれいになる」と
教えている。
■「非科学的だ」
県東青地域県民局は2004年から、管内の希望校にEM菌を無償で提供し、実践を支援して
いる。提供開始にあたり、県はEM菌による浄化活動が行われている川で1年間、水質を調査。
だが、顕著な改善は確認されなかったという。
にもかかわらず継続している理由を「学校が水質浄化に関心を持ち、活動してくれること
自体が有り難いことだから」と担当課長は話す。担当部署はこれまで、EM菌の効果を科学的に
EM菌の効果について、開発者の比嘉照夫・琉球大名誉教授は「重力波と想定される波動に
よるもの」と主張する。
製造元で普及を進めるEM研究機構(沖縄県)は「EMに含まれる微生物がリーダー的な存在と
なり、現場の微生物を連係させる」と環境浄化メカニズムを説明する。また、機構は「放射能対策
に効果 がある」とも言う。
だが、疑似科学問題に詳しい科学者らは、EM菌の効果や理論を批判する。菊池誠・大阪大教授は
「原理は物理的にナンセンスの一言。何でも都合の良い方向に働くとの万能性をうたっていること
自体が、非科学的だ」と指摘する。
水質浄化の効果についても、否定する報告が多い。
  
岡山県環境保健センターは1997年度、EM菌は水質浄化に「良好な影響を与えない」と報告。
実験用の浄化槽にEM菌を加えて600日間観察したが、EM菌のない浄化槽と同じ能力だった。
広島県も03年、同様の報告をしている。
 
三重県の05年の報告は、海底の泥の浄化に「一定の効果があると推定」した。湾内2カ所の

実験で、1カ所で泥中の化学的酸素要求量(COD)が減少したためだ。だが、水質に関しては

効果がなかった。
岡山県の検証に参加した職員は「川や池でも試したが効果はなかった。EM菌が効く場合が全く
ないとは言い切れないが、どこでも効果が期待できるようなものではない」と指摘する。
長島雅裕・長崎大教育学部准教授は「疑わしい事柄を真実と教えれば将来、生徒が疑うべき
ものを疑えなくなる恐れがある。
本来は多様な対策が必要な環境問題を、EM菌だけで対処可能と思わせることも思考停止につなが
りかねない」と話した。(長野剛)
■「川きれいになる」と教えた10年以上実績、青森の中学
青森市の中学校の1室。壁沿いの棚に黒い液体の入ったペットボトルが数十本並ぶ。6月に県から
提供されたEM菌の原液だ。

 「県の支給なので、まさか効果に疑問があるものとは思わなかった」

中学校で、EM菌による水質浄化を指導する女性教師は話す。近所の川にEM菌をまく活動は、
前任 者の時代から10年以上続いてきた。1学級2人ずつの美化委員会が、年数回活動している。
委員以外の生徒からも家庭のコメのとぎ汁を収集。EM菌の原液と混ぜて灯油缶で「培養」し、
川に流す。生徒たちは、真冬の雪の中でも積極的に参加した。流したEM菌の液は昨年度、1千リ
ットル超。教師は「川がきれいになる」と教えてきた。
文化祭では毎年、生徒がEM菌の効果をインターネットなどで調べて発表。効果を否定する情報を
見付けた生徒もいたが、「様々な意見はあるけど信じよう」と指導したという。
教師は、効果に疑義があると知り「生徒にはきちんと説明したい」と語る。県の担当者は「配る
のは学校側の要請だから」と責任を否定している。